Scene 1
回る光、震える手

- Place
- 岬鼻灯台 灯室——八角形の窓を囲む鉛色に曇った分厚いガラスの前、レンズが軸を軋ませながら回転し、光条が霧の壁を一枚ずつ舐めていく狭い足場
- Time
- 満月と大潮が重なった深夜、点灯記録の分刻みの合間
- Action
- 宗一は手すりに片手をかけて回転するレンズの動きを目で追いながら記録簿にペンを走らせるが、光条が霧を切った瞬間、ガラスの向こうに福栄丸の甲板と若い父の顔が浮かび上がるのを見て、ペン先が紙面を裂くように大きく跳ねる。彼はとっさに記録簿を閉じて手のひらで押さえ、震えを止めようと手すりを強く握り直す
- Impact
- 三十年守ってきた分刻みの記録という規律に初めて明確な亀裂が入り、宗一の内側で霧に触れたいという欲求が規律を上回りかけていることが、彼自身にも隠せない形で露わになる
金属の手すりを片手で摑んだ宗一が、もう一方の手でペンを走らせていた記録簿の上でびくりと跳ね、インクの線が紙を突き破るように歪む。八角形のガラスの外で光条が霧を切り、その白い筋の奥に若い男の輪郭と沈みゆく甲板の影が一瞬だけ浮かび、すぐに乳白色に呑まれて消える。踏み板がわずかに軋み、宗一は記録簿を胸に押し当てたまま、外気の冷たい風切りだけを吸い込む


























